永田豊志氏インタビュー

「革命的フレームワーク『図解思考』 ~知的生産性を高め、人々に貢献する~」第1回

聞き手 / PE&HR株式会社 代表取締役 山本亮二郎

 2010年、ASPアワード*1グランプリを獲得した成長ベンチャー、株式会社ショーケース・ティービーのCOOであり、『図解思考』『最強フレームワーク』などのベストセラー作家でもある永田豊志氏は、仕事の効率化を図る手法を研究する知的生産研究家として多くのビジネスマンに支持されています。インタビューでは、日々の経営や仕事に『図解思考』をどのように活かしているのか、アイデア・新規事業を生み出す秘訣についてお話いただきました。

■リクルートの新規事業、メディアファクトリーの立ち上げ

― 独立される以前、リクルートさんでユニークなプロジェクトを担当されていたとお伺いましたが、どんなプロジェクトだったのでしょうか。

 リクルート*2には、1988年に大学を卒業して入社しました。今では総合情報サービスの会社として非常に大きな存在になっていますが、当時はまだ人材系サービスが中心の会社でした。私が入社した頃、新規事業として通信やコンピュータを手掛けていまして、情報ネットワーク事業部という部署に配属され、通信系の法人営業をやらせていただきました。2年ほど営業を経験した後に、リクルートの将来に向けて新しい媒体を設計していく、メディアデザインセンターという部署に配属になったんです。この部署は、ある意味研究所みたいなもので、ネットワークやマルチメディアを推進していく者がいたり、変わったところだとゲームを手掛けたり、匂いがメディアになるのか研究したり、メンバー毎にそれぞれのテーマを担当していました。
 私は、新しいメディアの担当ではなくて、書籍や出版事業の担当で、いわゆる一般向けのコンテンツ事業ができないかというミッションを持っていました。その回答として、1年後くらいにメディアファクトリー*3という新会社を立ち上げることになりまして、リクルートは情報誌ビジネスを展開し、メディアファクトリーは情報誌とシナジーのありそうなコンテンツビジネスをやっていくということになったんです。1991年に設立され、10名くらいでスタートした会社で、営業や企画、マーケティングをやらせていただきました。

― 入社されたばかりで、非常にエキサイティングなお仕事だったと思いますが、当時、メディアファクトリーでの新規事業を経験されて感じたことを教えていただけますでしょうか。

 リクルートに入社してからの2年間は法人営業をしていましたので、新会社でも営業として参加したのですが、通信系サービスのBtoBと一般向けコンテンツを扱うBtoCでは、随分とビジネスの仕方が違うという驚きを受けました。
 その後、営業から商品企画を経て、編集業務を担当するようになりました。そのとき担当したプロジェクトで、コミックエッセイ*4と呼ばれる女性向けの漫画とエッセイのハイブリッド商品を手掛けました。コミックエッセイは、今のメディアファクトリーの看板商品になっています。テレビ朝日でアニメや映画にもなった『あたしンち』とか、最近では『ダーリンは外国人』とか、すべてコミックエッセイという新しい商品カテゴリから生まれてきたものなんです。
 当然ながら、メディアファクトリーの位置づけとしては、リクルートの情報誌とシナジーのあるコンテンツをつくるということでしたので、国内旅行情報誌『じゃらん』とか海外旅行情報誌『AB-ROAD(エイビーロード)』とか不動産情報誌『住宅情報』などのブランド*5がついたノウハウ本や保存版の書籍も出版していました。『じゃらん』だったら「デートブック」ですとか、『AB-ROAD』だったら「リゾート・ガイド」ですとか、『住宅情報』だったら「購入ガイド」というものを作っていたんです。

― コミックエッセイの企画は、永田さんが発案したのでしょうか。

 そうですね。メディアファクトリーが設立される以前から、リクルートグループの出版部門があったのですが、その手の商品はやっていなくて、普通の活字のものしか扱っていませんでした。私自身文学系でもなんでもなかったので、漫画だったら分かるかなと思って企画しました(笑)。

■コンテンツビジネスの難しさ

― コミックエッセイを手掛けていた当時の、思い出深い作品を教えてください。

 『あたしンち』を描いている、けらえいこ*6さんという漫画家さんは、今ではトップ漫画家になっていますけれども、当時はどちらかといえば無名のイラストレータだったんです。有名な漫画家は『ジャンプ』や『マガジン』等と専属契約をしているので、そのときのコミックエッセイの戦略としては、若い無名の方を取り上げてチャンスを与えようという方針でした。けらえいこさんは、そうした背景があって取り上げられた一人だったんです。けらさんの旦那さんは有名な編集者でしたが、私も編集者でしたから、彼女の作品の方向性について相当やりあいました(笑)。旦那さんから見たら、奥さんのコミックエッセイとしてのデビュー作ということで思い入れもありましたし、相当気合いが入っていましたので、かなり議論しましたね。当時は熱意のみで仕事をしていましたので、本の帯に書く1行コピーを作る仕事だけでも二晩徹夜してやるといった、若さゆえのスタイルで仕事をしていました。

― けらえいこさんの才能は、当時から感じられたのでしょうか。

 正直分からなかったですね(笑)。コンテンツというのは、そこがなかなか難しくて、自分で絶対面白いからヒットすると思っても、実際は世の中にまったく受け入れられない場合もありますし、肩の力を抜いて作った予想していなかったものが大ヒットすることも結構あったりして、自分自身、正解が見つからない。やはり、水物的なところがありますよね。

■CGアイドルで版権ビジネス

― リクルートを辞めてからはどのような仕事をされていたのでしょうか。

 30歳のときにリクルートとその関係会社を辞めた後、コンピュータグラフィックス等のクリエイター向け情報誌の編集長として、ある出版会社で編集担当役員をしていました。その時に、いろいろなグラフィックのクリエイターとネットワークが出来たんです。最初は単純に取材という関係でのお付き合いだったのですが、非常に素晴らしいコンテンツやキャラクターをお持ちだったにも関わらず、一切日の目をみることがなかったので、クリエイターの方々が持っているキャラクターを預かってビジネスにしたらどうかと思うようになったんです。そのため、クリエイター向け情報誌の編集長をやりながら、キャラクター版権ビジネスを手掛ける子会社を別につくり、代表をしていました。特に当時は、コンピュータ・グラフィックス(CG)を使った3次元のキャラクターの中でも、CGアイドルとかバーチャルアイドルとか言われて注目を集めた時期がありまして、そのキャラクターの版権管理をして、CMを制作してみたり、ビデオを作ってみたり、ゲームを作ってみたりしました。

― どのようなCGアイドルのプロデュース、プロモーションをされていたのでしょうか。

 「テライユキ(寺井有紀)*7」です。当時は、新聞やテレビ、雑誌でもかなり取り上げられましたし、「テライユキ」のキャラクタービジネスだけで、年間で結構な売上高になっていました。

■プラットフォームになるようなビジネスがしたい

― その後、現ショーケース・ティービーCEOの森さんと新しいビジネスを始められるまでのエピソードを教えていただけますでしょうか。

 キャラクターの版権ビジネスの会社の代表を退任した後、独立して、動画を活用した企業向けマーケティングの会社を始めました。それまでに版権ビジネスや情報誌の出版をしていて感じていたことが、商売は胴元としてやらないと面白くないということでした。独立をした会社では、動画を使ったマーケティングをしていたんですが、受託のビジネスなので胴元でもなんでもないですよね。やっぱりプラットフォームになるようなビジネスをしたいし、自社商品をつくりたいという気持ちを持っていたんです。そのためにはより多くの才能を結集して、組織を大きくしていかなければならないですし、人を集めるためには大きなビジョンを描かなければいけない。上場も視野に入れてファイナンスをし、きちんと組織を大きくしていこうと思っていたときに、身近で一緒にビジネスをした経験があった森に相談して、お互いの会社をひとつにして一緒にやろうということになったんです。ほぼ同時期にお互いが同じように思っていて、お互いから同じような話が出て、ショーケース・ティービーとして統合し、現在に至ります。

■経営の実践の中から生まれた「知的生産研究家」

― 知的生産性の向上をテーマにした本を書こうと思われたきっかけについて教えてください。

 それまでに仕事で技術系の専門書を書いたことはありましたが、自分の名前で知的生産性の向上というテーマの本を書くようになったきっかけは2つあります。
 1つは、自分自身勉強のきっかけが欲しかったということです。ベンチャー企業を経営していて、ファイナンスとか、リクルーティングとか、会社組織を大きくするために事業計画を書いたりとか、ビジネスプレゼンテーションをする機会が増えてきたので、いろいろなフレームワークを自分なりに学習したり、経営学の本を勉強したりしました。そのように学んだことをアウトプットしたいなという思いがあったんです。
 もう1つは、1冊目を出版した2008年頃なのですが、社内セミナーをやり始めたことがきっかけです。会社を辞めていく人たちにイグジットインタビューをして、「今後どうしていくのか」「なんで辞めようと思ったのか」と聞いたところ、「だいたい仕事を覚えたので学ぶべきものがない」とか「新しいフィールドで新しいことを学びたい」という答えが多かったんです。インタビューの結果、社員の教育機会を作って成長を感じることができる環境を作らないと、変な話ですが社員は会社に残る理由がなくなってしまうのではないかという危機感を抱き、社内大学をやろうと考えました。それから、毎週木曜日に1時間から1時間半ほどテーマを変えて、社内セミナーみたいなものをやり始めたんです。そのネタ集めということもあって、いろいろなフレームワークを集めて、整理するようになりました。
 ただし、勉強会のストックを原稿のもとにしたわけではなくて、出版を決めたときにあったのは、プレゼンのパワーポイントだけでした。

※永田氏は本を書くときに、全ての原稿をパワーポイントでつくっている。最新刊『プレゼンがうまい人の「図解思考」の技術』を出版するときに作成したパワーポイントの例。

第2回へ続く

[撮影:大鶴剛志]

*1 日本国内でもっとも優秀かつ社会に有益なASP・SaaS・ICTアウトソーシングを実現しているアプリケーション・コンテンツ提供・その他のオンデマンドサービスなどの、ネットワークを活用したICTサービス全般について表彰するもの。ASP・SaaS・クラウド コンソーシアムが主催、総務省等が後援している。
*2 1960年、江副浩正氏が創業。様々な分野で情報サービスを提供している。詳しくは下記を参照。
*3 1986年リクルートの出版部門が分離独立し、リクルート出版としてスタート。1991年にメディアファクトリーに社名変更された。雑誌や書籍の他、映画や映像ソフト、アニメ、ゲームの製作も行っている。
*4 個人的観点から形式に捉われずに書かれた散文をエッセイと呼ぶ。コミックエッセイは、エッセイ風の漫画のこと。作者の体験や知識をもとに描かれた短い漫画を指す。
*5 リクルートの情報誌ブランド。AB-ROADは2006年休刊し、インターネットサイトのみが存在している。住宅情報は、ブランド名が変わり、現在SUMMOとなっている。
*6 けらえいこ。デビュー作は『3色みかん』(「ヤングサンデー」小学館)。メディアファクトリーから自身の結婚生活を題材にしたコミックエッセイ「セキララシリーズ」を発表。その後、『あたしンち』がアニメ化、映画化され人気を博している。
*7 漫画家くつぎけんいち氏によってデザインされたバーチャルアイドル。2000年前後のバーチャルアイドルの流行を代表するキャラクター。YouTubeに当時の動画がアップされている(参照

「革命的フレームワーク『図解思考』 ~知的生産性を高め、人々に貢献する~」 全4回