「革命的フレームワーク『図解思考』 ~知的生産性を高め、人々に貢献する~」第3回
聞き手 / PE&HR株式会社 代表取締役 山本亮二郎
2010年、ASPアワードグランプリを獲得した成長ベンチャー、株式会社ショーケース・ティービーのCOOであり、『図解思考』『最強フレームワーク』などのベストセラー作家でもある永田豊志氏は、仕事の効率化を図る手法を研究する知的生産研究家として多くのビジネスマンに支持されています。インタビューでは、日々の経営や仕事に『図解思考』をどのように活かしているのか、アイデア・新規事業を生み出す秘訣についてお話いただきました。
■情報整理力と記憶力が断然違う「図解思考」
― 「図解思考」を実践されたのはいつ頃からでしょうか。
本を書き始めた頃からですから、ここ2~3年の話です。「図解思考」を実践すると、仕事のパフォーマンスがかなり上がります。記憶の残り方が断然違います。
新聞等でビジネスモデルが紹介される時に、四角でサービス提供者や顧客を、矢印で提供されるサービスを、その逆向きの矢印で料金を表した図が掲載されていることがよくありますよね。非常にシンプルに描かれたビジネスモデルの図を見ていて、「どんなに複雑系のシステムになっても、それぞれの要素がどのように関係しているのか書き表すことができれば、情報を分かりやすく整理できるんじゃないか」と思いました。
まずは自分自身がやってみようと思いまして、箇条書きのメモを一切廃止し、どのくらい図や絵で記録ができるのか挑戦してみました。半年くらい続けて慣れてきたら、字でメモを取るよりも、むしろ楽しくなってきたんです。それまでは、私自身、字が上手くないこともあって、自分の書いたノートや手帳を見返したいと思うことはほとんどなかったのですが、図や絵でメモを取るように変えてからは見返すのが非常に楽しくなりました。実際のビジネスシーンでも効果があり、過去の商談を振り返るためにノートに書かれた図解を見た瞬間に、「あの話はここが問題だったな」とか「この話はここが課題だったな」とか、すぐ記憶が戻るようになったんです。
図解と言ってもデッサンとかスケッチとかの話ではないですし、単純に四角と矢印を描くだけなので、どんなに絵が苦手な人でもできますし、費用対効果としても生産性の高いスキルだと思いました。
それで「図解思考」をテーマにした本を書くことにしたんです。打ち合わせや事象を理解するための方法として、最初に『頭がよくなる「図解思考」の技術』を出版しました。
― 近著の『プレゼンがうまい人の「図解思考」の技術』では、プレゼンテーションするときにも図解思考が使えると書かれていますが、どのような背景から出版されたのでしょうか。
ヒントは自社の中にありました。日々営業活動をしていると、「あそこの企業さんに出す提案を見てください」と言って、メンバーがいろいろな提案書を持ってくるわけです。目を通してみると、多くの場合、主張の軸がぶれている。なぜだろうと考えていたら、いきなりパワーポイントで資料を作っていることに原因がありそうだと気付きました。よく見てみると、戦略もストーリーもシナリオも何もないままパソコンに向かって資料を作っているんですね。もう1つは、メッセージの伝え方が違うと思いました。「ウチの商品はこんなに良いです」「ウチの商品はこんな機能があります」というところにフォーカスしていて、お客様の課題をどのように解決するかという道筋が非常に薄いと感じることがありました。
やはりプレゼンテーションというものは、基本的には「何かの問題を解決する」とか「現状よりもより良い状態をもたらす」という目的や背景があって、初めて意味あるものになると思います。その目的や背景を取っ払って、提案だけをお客様のところに持っていってもなかなか上手くいきません。だから、きちんとWHYのところの道筋を立てるために、プレゼンの本でも書いているように現在・未来の姿をまず描いて、そのギャップを埋める策としてこういう商品があるんですとか、こういう活動や計画がありますというような話をすべきだと思います。そのために最初はパソコンを閉じて、紙とエンピツを持って、どこかで構想だけを練る時間をつくった方が良いですよ、という話になるわけです。その構想も図解思考の技術を使うことで、四角と矢印のみで表現することができるんです。
― 詳しくは『プレゼンがうまい人の「図解思考」の技術』を読んでいただけばわかると思いますが、本の中で書かれていた『合体ロボ*9』のように表現することができるということですね。ちなみに、永田さんはどこで構想を練ることが多いのでしょうか。
会社の近くのタリーズに行ったりします(笑)。30分ほど白い手帳に構想を書いて、戻ってきてからパワーポイントを作ると、非常に効率的で作業時間が短くなりますし、シンプルで分かりやすい提案書を作ることができるなと感じます。
■「組み合わせ」と「逆アプローチ」でアイデアを生み出す
― 新しい発想やアイデアは、なかなか簡単に生まれるものではないと思うのですが、新しいものが生まれるメカニズム、プロセス、要素等については、どのようにお考えでしょうか。
よく「独創的」という言い方をすると思いますが、私自身は本当に今まで無かったアイデアが生まれるということはないと思っていて、ジェームス・ヤング*10の『アイデアのつくり方』に書かれているように、「基本的には異なるものの組み合わせで新しいアイデアは生まれる」と思っています。ですから、どのような組み合わせにするかということが問題になります。
分析のためのビジネスフレームワークではマトリックスがよく使われますが、発想の組み合わせのためにこうしたマトリックスを使えば、もっと多くのアイデアが生まれるんじゃないかと思っています。
従来の日本は、製造業を中心にした改善努力によって成長してきました。商品はすでにあって、少しでも安く、少しでも多機能にということを目指してきた世界でした。しかし最近では、日本が十八番だったそのような商売が、韓国とか中国とかに取られていますので、今後は製造業的な改善を目指すだけではなくて、全く違う枠組みを生み出すビジネスのやり方が求められると思います。新しい仕組みやプラットフォームというものは、必ずしも今あるものを改善するだけでは得られないと思います。
革新的なアイデアを考えるために必要な要素として、私が今考えているものは2つあります。1つは先程お話した「異なるものの組み合わせ」です。例えば、自分の会社のサービスが上手くいっていない場合、打開策となるヒントを同じ業界から見つけようと思っても難しいと思います。それより全く違う業界の成功例を自分の事業にどう活かせるかという視点で考えた方が良いです。参考になる事例が日本になければ、アメリカを見てみるのも一つの手だと思いますし、先進国ではなく、新興国に目を向けても視野が開けると思います。どのような考え方に基づきどんなビジネスが存在しているのかということから、自分の商品やサービスを練り直してみることがポイントです。そういう異なる組み合わせから気付きが得られることが多いと思います。
もう1つ、革新的なアイデアを出すために重要だなと思っていることは「逆アプローチ」という考え方です。課題から対応策を練るのではなくて、いっそのことその課題がなくて済むにはどうすれば良いか考えるとか、1から10というアプローチではなくて、10から1にいくためにどんなことができるかとか、逆からの発想です。
■革新的なアイデアは、既得権益を粉々にする
素晴らしいアイデアは、ある意味、自己否定からスタートするものだと思います。アメリカの革新的なアイデアは、アップルにしても、グーグルにしてもそうだと思うんですが、既得権益を粉々にするところからスタートしているのかなと思うんです。私がITビジネスに携わっているので特にそう感じるのかもしれませんが、やはり既得権益を持った人たちから革新的なアイデアは生まれにくいです。もしそういった人たちが革新的なことをしようというのであれば、まず自分たちがこれまで築き上げてきたビジネスを壊してしまうかもしれないけれども、逆からユーザー視点で考えるというアプローチが必要になるのだと思います。
[撮影:大鶴剛志]
*9 聞き手に分かり易く印象に残るようなプレゼン手法を図解にしたもの。序論(頭)、本論(胴体と手足)、結論(台座)という3部構成で、ロボットの各パーツが、1つのトピックを表す。
*10 ジェームズ・W・ヤング(1986-1973)は、アメリカ最大の広告代理店J・ウォルター・トムプソン社の常任最高顧問をはじめ、広告業界の要職を歴任した人物。