「無名の個人の時代 ~ビジネス書を読み、ビジネス書を書く~」第2回
聞き手 / PE&HR株式会社 代表取締役 山本亮二郎
レバレッジシリーズをはじめ、著書累計150万部を超えるベストセラー作家の本田直之氏。著者のプロデュースも行っており、合計40万部を突破している。本田氏は「無名の個人の時代」や「時代のうねり」をどう捉えているのか。本田流仕事術からライフスタイルまでお伺いしました。
■インプットした情報をどう判断するか
―年間400冊以上も本を読まれるとお聞きして驚きました。普通の人にはなかなか想像できない数だと思いますが、書籍以外のものを含めて、実際にどのように情報をインプットして、そのような時代の変化を感じ取っているのでしょうか。
インプットする情報は大量にあった方がやっぱり良くて、雑誌で言うと、ビジネス系の雑誌はほとんど読んでいますし、ライフスタイル系の雑誌も含めて毎月50冊以上は読んでいますね。新聞は、日本でもアメリカでも、『朝日』と『日経』を取っていますし、プラスアルァとして、ハワイだったらハワイのローカル新聞を読む、いろんなところを回っているときはその地域のローカル新聞を読むようにしています。
様々なメディアをまとめていて、横断的に情報が取れるものは便利ですよね。例えば、海外の情報だと『クーリエ・ジャポン』を選びます。こうした情報誌を読むことで、多種多様な視点を持ったそれぞれのメディアの情報を一気に集めることができますし、自分がいつも見ているメディアとは違う角度からの情報を得ることができるからです。そうすることで、色々な視点で一つの事象を判断することができるようになります。日本では『選択』という情報誌があります。『選択』では、政治とか経済とか様々なオピニオンを集めています。雑誌や情報誌については、あまり深く読み込まないということがポイントかと思います。全部読もうと思ったら、ほとんどそれだけで1ヶ月経ってしまいますから。とにかく気になったところだけを読むんです。常に読んでおくと、なんとなく目に入るものがあります。「定期的になんか同じようなことを言っているな」とか、「最近こういうこと言われるようになったな」とか、そういったことを感覚的にでも分かっていれば、「時代のうねり」が見えてくるようになります。
ここで気をつけなければいけないのは、メディアの情報は偏っていることが多いということです。特に新聞は分かりやすいんですけど、『朝日』と『日経』では、視点が全く異なるじゃないですか。片方ばかりを読んでいたら、たぶんすごく偏った判断になってしまうと思います。『朝日』は労働者寄りだし、『日経』は経営者寄りだし。偏っているということを前提に、より多くの新聞や雑誌をスピーディーに読むことによって、俯瞰的な見方ができるようになって、すぐには目につかなくても「うねり」が見えてくるのではないかと思います。
もう一つ大切なのは、自分の仮説を持って情報に接した方が良いということです。僕の場合だったら、「無名の個人の時代が来るだろうな」と思って、そういう視点で情報を見ていくと、自分の仮説の裏づけになる情報が目に入ってくるようになるわけです。自分の仮説が間違っていれば裏づけが全然とれないので、「この仮説はちょっと違うな」といった判断ができます。例えば、僕はリーマンショックの1年前にほとんどの保有株式を売却しました。メディアや営業の人は「まだ上がります」とか「今が割安です」とか言っていたのだけれど、絶対にそれはないと確信していたんです。仮説をもって情報をインプットするように意識すると、情報に踊らされずに済むという利点があります。
―本田さんは、活字情報から得られるものだけでなく、ハワイと日本を往復しながら、シリコンバレーや上海など世界中を飛び回り、現場を見ているからこそ「うねり」を感じ取ることができているということでしょうか。
多分、実際にいろんな地域に行くことやいろんな人に会うことも重要だと思います。どれか一つだけではやはり偏ってしまいます。個人から得られる情報も偏っている可能性がありますし、実際に海外に、例えばアメリカに行って、目の前の状況が不況だとか好況だとか分かったとしても、訪れた場所のことだけかもしれないじゃないですか。つまり、ある一点の地方の状況でしかないわけです。だからこそ、自分の仮説をもとにいろんな情報を見ていくことによって、情報の精度を上げることが重要になるんだと思います。「このメディアで言っていたことと、現地で見たものとはちょっと違うな」とか、「あの人が言っていたことを考えると、この情報は違うんじゃないかな」とか、「この人はちょっと極端だな」とか、そういう判断ができるようになる。生の声と活字の情報と現場を見れば、「うねり」がよりくっきりと見えてくるのかなと。ただ、絶対はないということです。どう考えても預言者にはなれないですから。そういう前提で判断しないといけない。
時代の変化を感じ取ったあとは、自分の行動に対して、どうリスクを取れるのか考えることです。取り返しのつかないリスクを取ってしまうと、情報収集にかけた時間や投資よりも損失の方が大きくなってしまい、結構大変な失敗につながってしまいますからね。ある程度リスクを減らすことはできます。100個リスクがあれば、10個くらいまでは減らすことができるでしょう。でも、0にはならない。できる限りリスクを減らしてから失敗したものはしようがない。けれども、リスクを減らす努力をしない人は割と多いのではないかと思います。目の前にある情報について、それっぽく知っていそうな人やメディアが言ったことを真に受けて、なんとなく判断してしまい、うまくいかなかったという話はよくあります。そのため僕は、最適な判断ができるようにリスクを減らすための努力に時間をかけています。
■プロデューサーとしての横顔
―本田さんは、本業でもあるベンチャーの投資育成や作家の仕事のほか、作家のプロデューサーとしてもご活躍ですが、どのように相手の才能やマーケットを理解して売り出していくのでしょうか。
世の中の流れというか「うねり」にすごく敏感で、今何が求められているのかなということが常に頭の中にあるんです。プロデュースするときはどうやっているかというと、「君をプロデュースさせて」というアプローチは基本的にしていなくて、たまたまこうして話をしていて「あ、この人面白いな」と思ったら、とにかくその人の話を聞いていくんです。話を聞いているうちに「みんなが知りたがっているし、これを本にできないかな」というところがあれば、さらにインタビューをしていくことでもっと深掘りしていきます。その人がネタをたくさん持っていれば、それを僕が再現性のあるロジックに組み替えてあげて、本としての構成をつくって、出版社を選び、世に出していきます。
僕が欲しいなって思っている情報は意外に一般の人に受け入れられやすいことが多いみたいです。幅広い人のニーズをなんとなく分かるということは、自分の一つの才能なのかなと思います。
なので、なぜ本が売れるのかっていうと、みんなが欲しいものを、僕や他の誰かが持っているノウハウで提供するという観点で書いているからだと思います。みんなその視点がなくて、自分がこんなにすごいんだという風にやるから、結果つまらなくなってしまうのではないかと思います。
―本田さんが最初の本を出す前に、カリスマ編集者へのアピールに失敗したときのように*5。
そうそう。そこがみんな見えていないことが多い。あと、自分のことだと「そんなことはみんな知っているでしょ」と思っていたりするから、価値があることかどうか気づいていないことがある。僕が最初に本を出した時もそうだったし、プロデュースしている人たちもみんなそうでしたが、「これが本になるの?」みたいな、そういうものが受けるのです。
―私は、ソニーの井深さん*6が経営者の中でも非常に好きで、いろいろな本を読むと、井深さんの何が優れているのかたくさん書かれているのですが、ウォークマンのように多くの人々が欲するものを直感的、天才的に分かるらしいんですね。みんなが求めているものが分かるというのはすごい才能ですよね。
いろんな人に会っているからということも勿論あるかもしれないですね。
こんなネタがあるので本を書きたいという人に限って良いものがないことが多いですね。どちらかというと本人は本を書こうと思っていなかったところから発掘したものの方が面白い。本にしようと思って形式的にまとめてしまうとうまくいかない。それっぽいものにはなるけど、面白みに欠けてしまうというか。初めから本をつくろうと思っているんだったら、自分でやった方が良いと思います。僕はみんなが求めているもので、まだ誰も気付いていない、本人ですら気付いていないものを本にした方が、意義もあるし、多くの人に役立つのではないかと思っています。
―ビジネス書をたくさん読んでビジネスで活躍して、その先にはビジネス書を書きたいという人がこのサイトを通じても出てきたら良いと思っているのですが、そういう人たちが本田さんに何か相談したいというのは、ちょっと違うわけですよね。
そのためにこの本(『パーソナル・マーケティング』)を書いているという側面もあって、これを読んでもらえれば、その第一歩はできると思います。誰の役に立つのかということがとても重要な観点なのですが、それが抜けてしまっている人がすごく多いのです。ビジネスでも同じだと思うんですけど、こんなすごいテクノロジーを作った、でも誰も求めていないですというような話が起きてしまう。たまにはそういうものでも良いものも勿論あるんですけど、この本を読んでもらうのがもっとも良いと思います。個別のアドバイスはちょっと難しいかもしれませんね。
そもそもプロデュースする方が、すごく手間が掛かるし、誰かの頭の中をまとめ直すことはものすごく大変な作業なんです。だから、たくさんインタビューするわけで、それこそ数時間で終わることじゃない。何日っていうレベルで時間をかけながら、その中で導き出していく。そもそもその人のことを良く知っていないとプロデュースは絶対できない。会ったばかりの人に「やってくれ」と言われてもすぐにはできない。今度、長谷川理恵さんの本をプロデュースするのですが、彼女のことをよく知らないわけじゃないですか。だから、いきなりはできない。相当何回も会っていく中で、良いものを見つけて、本に仕立てていくというスタイルになります。プロデューサーとして食べていこうとは思っていないので、このスタイルを貫いています。
[撮影:大鶴剛志]
*5 『パーソナル・マーケティング』の冒頭に書かれているエピソード。その失敗をもとに「どうみんなの役に立つのか」という視点を加えたことで、ある編集者の目に止まり生まれた本が『レバレッジ・リーディング』であり、17万部を超えるベストセラーとなった。『レバレッジ・リーディング』では、多読の勧めとともに多くのビジネス書が推薦されている。
*6 ソニー創業者