浜口隆則氏インタビュー

「起業の専門家が追求する未来 ~起業家を増やし、社会を幸せにする~」第4回

聞き手 / PE&HR株式会社 代表取締役 山本亮二郎

 株式会社ビジネスバンクグループ代表取締役であり、『戦わない経営』『社長の仕事』『エレファント・シンドローム』などの著者でもある浜口隆則氏は、起業家向けオフィス「オープンオフィス」を立ち上げ、レンタルオフィス業界を作ってきました。2012年、新たなステージに向かうためにオープンオフィス事業を譲渡。現在は起業家教育事業をはじめ、起業を総合的に支援する事業を展開されています。インタビューでは、創業から現在に至るまでどのような思いでどのように事業を発展されてきたのかお話いただきました。※本原稿は、2013年5月20日に行われたインタビューに基づき作成しています。

経営の究極的な目的は関わる人を幸せにすること

― 積極的な新規事業の立ち上げは、安定した事業の柱があるのでできることだと思いますが、普通は新規事業を立ち上げるまで赤字が続くことが多いので、ベンチャーが複数の新規事業をやるのはなかなか難しいのではないかと思いますが、いかがでしょうか。

 難しいとは思います。私達も難しさは感じているのですが、その事業が有望であったり、グループの既存事業との相乗効果があったり、何よりも起業家にとって必要な事業であれば、やってみようと思います。勿論、簡単なことではないのですが、起業の専門家ですので、どのようにすればうまくいくかということは、ある程度分かります。
 インターンや新卒採用支援の事業は、入社3年目のメンバーが担当しているのですが、その彼が入社初年度から手がけています。入社する前、半年ほどインターンとして来ていました。当社のインターンでは、インターン終了時に新規事業のプレゼンをしてもらうようにしているのですが、当時彼は、インターン事業や新卒支援事業を企画して、自分が入社して立ち上げたいというプレゼンをしたのです。それで採用して、入社後そのまま新規事業を担当しています。ゆくゆくはグループ企業の一つに育っていくだろうと思っています。
 良いと思うことを、純粋にやりたいです。私達は、起業環境を整えていく仕事をしているので、学生のうちに起業の環境を知ってもらうという、啓蒙的なことをやっていきたいのです。そういうことも含めて、学生や採用したばかりの新入社員が新規事業を立ち上げるのは、たとえ苦労しても、やる価値が高いと判断しました。

― 教育事業をフランチャイズ化されることも検討されているとお聞きしました。今後の計画を教えてください。

 学校に関しては、フランチャイズで少しずつ拠点を増やしていこうと考えています。私達が「オープンオフィス」を始めた長野で、まずはある法人がフランチャイズとして、「プレジデントアカデミー」をスタートしてくれることになりそうです。また、現在、人・金・ものを提供できる起業支援のパッケージを作っているのですが、今後は、そのパッケージごと、東京以外の大阪や名古屋など全国六大都市に展開することを計画しています。

― 10周年で作られた『戦わない経営』がきっかけとなり、かんき出版さんから『戦わない経営』を出版されたのですね。改めて、出版されるまでの経緯を教えていただけますでしょうか。

 10周年で『戦わない経営』を作ったときに、出版の可能性があるかもしれないと思いました。10周年を迎えるにあたり、10年間やってこれたことを本当に周りに感謝し、多くの方々にお世話になったという想いがすごく強かったのです。何か還元できることはないかと考え始めて、記念パーティーや、記念品を作ることも考えたのですが、何が最もお還しできることだろうか考えたら、私達が学ばせてもらったことではないかなと思ったのです。とにかくそれを表現しようと、すぐに本にまとめました。最初は500部ほどを刷って、2006年のクリスマスに皆さんにお配りました。大変喜んでいただくことができて、最終的には、結構お金がかかったのですが、5,000部ほど作ってプレゼントしました。そうしたことがきっかけとなり、かんき出版さんからお話をいただき、2007年5月に『戦わない経営』を上梓しました。『戦わない経営』は、韓国と台湾でも翻訳されました。その後、出版させていただいた本も全て、どちらか一国だけのものもありますが、翻訳され海外でも読んでいただいています。

― 冒頭でお聞きした『エレファント・シンドローム』以外で、思い入れの強い本はどれになりますでしょうか。

 やはり『戦わない経営』が一番思い入れが強いですね。『戦わない経営』を出すときに、自分で経営をしてきたことや、様々な方々の経営を見てきたことから、経営って幸福追求型じゃないといけないんだなと思ったのです。大学でも勉強して、会計事務所でも経営を見てきましたが、経営の究極的な目的は関わる人を幸せにすることだと思いました。そのような考えが、当時は常識的ではなかったと思います。だから、それを伝えたいと思って書きました。

― 2011年9月に出版された『社長の仕事』は、『戦わない経営』とは少し異なるメッセージの本だと思います。どのようなお考えで書かれたのでしょうか。

 創業して何千人という起業家や経営者にお会いしてきた中で、一時的に成功するのはそこまで難しくないかもしれないけれども、成功し続けるのは結構大変だなと思うようになったのです。成功し続けるためには、社長が勉強し、成長し続けるしかないと思います。『戦わない経営』は母性的な本です。その後、出版された『仕事は味方』なども起業家を認め、励ますような、割と母性的な本でした。しかし、経営は母性だけでは駄目だなと思って、父性を全開にして「経営者はこうあるべきではないか」というような厳しいことを伝えようと思い、『社長の仕事』を書いたのです。

― この1年くらいの間にお会いした起業家で、特に印象に残る方はいますか。

 お会いする方々にそれぞれの良さがあるので、どの人にお会いしても、尊敬したい点がたくさんあり印象的ですが、あえて挙げると、リブセンスの村上さん*4です。
 こんな起業家が生まれてきたんだな、と思ったのです。一見すると草食系なんですけど、すごくしっかりしている。一般的に草食系に見えると弱く感じられると思います。でも、村上さんは絶対に弱くない。外柔内剛なんです。柔らかく見えるのですが、すごく芯が強くて、社会貢献意識が非常に高いのです。理想的すぎて、びっくりするくらいの経営者だなと思いました。話をしていても、あれだけのことを成し遂げたのに驕ったところが全然ない。私が同じ年齢で同じことができたとしたら、調子に乗っているだろうなと思うのです。スポーツの世界では、プロゴルファーの石川遼くんとか、若くして実績を挙げてあういう態度でいられるのはすごいなといつも思うのですが、村上さんには同じものを感じます。
 今の20代前半の起業家の人達は、40代の私達よりも色々な面で進化していると感じるのですが、強さが少し足りないのではないかと思うことがあります。村上さんは強さもあるので素晴らしいと思います。

― 最後に、これまで読んだ中で影響を受けた本を教えてください。

 『影響力の武器』*5という本です。割と古い本なのですが、影響力を科学的に考察している本で、人に影響を及ぼすというのはこういうことなんだな、ということが分かります。才能がある人が他人に影響を及ぼせると思いがちなのですが、そういうことではなくて、科学的に影響を及ぼすことができるということが書かれています。
 影響を受けるという意味では、自分で書いた本もそうです。自分で書いていることなので、絶対に出来なければいけないですし、やってきたことでなければいけないと思います。教える者が一番学べるということかもしれないのですが、良い意味で自分で書いた本に影響されています。
 本は勿論のこと、私達の起業支援を通じて、一時的な成功ではなく、継続的に成功し関わる人たちから尊敬し愛されるような会社が増えることを願っています。

― お忙しい中、大変ありがとうございました。

[撮影:大鶴剛志]

*4 2006年、代表の村上太一氏が早稲田大学1年生の時に創業した。2011年12月東証マザーズに、2012年10月に東証一部に、ともに史上最年少(25歳)で上場した。
*5 浜口氏が読んだと思われるのは、1991年に誠心書房から出版された初版の『影響力の武器』である。2007年に同じ誠心書房から第二版が出版されている。第二版では、初版の内容に世界各地の読者から寄せられたレポートを追加し、より身近に詳しく「影響力の武器」を描き出している。

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