「頂点を目指す生き方 ~世界最高峰の人材教育コンサルティング会社へ~」第4回
聞き手 / PE&HR株式会社 代表取締役 山本亮二郎
1987年、人材教育コンサルティング会社「アチーブメント株式会社」を創業した青木仁志氏は、目標達成のプロフェッショナルとして19年間にわたり「戦略的目標達成プログラム『頂点への道』講座」を連続500回以上開催し、2万人を超える方々の研修をしてきました。インタビューでは、青木氏の人生の歩みを振り返っていただきながら、人生哲学や信念、アチーブメントの経営についてお話いただきました。
■採用は恋愛じゃない。結婚なんだ。
― 毎年業績を拡大されている現在では、人材採用についてどのような取り組みをされていますでしょうか。
非常にシンプルです。優秀さを引き出すのは、本当にそのことをしたいのかどうか、願望に合うかどうかが最大のポイントです。私は、人材教育という仕事に人生を捧げるくらいの人材を選んでいます。「この業種以外に天職はない」という人です。この業種しかないと思っている2万人以上のエントリー者から厳選して採用していますので、当然、離職率は低いです。
世の中には様々な採用コンサルティング会社がありますが、商売で採用をやっている点が一番の問題だと思っています。もちろん、当社も商売で採用コンサルティングをやっていますけれども、視点が違います。簡単に言うと、本質的かどうかということです。中途半端な採用コンサルティングを受けると、オフィスを銀座に出せとか、カフェを作れとか教わるわけです。全然、本質的ではないですよね。当社なんかは、わざわざ五反田の坂を上がってこなければ会社に辿り着けない(笑)。本物の学生は場所でなんか選びませんよ。
私は、「採用は恋愛じゃない。結婚なんだ」と言います。恋愛だったら、良いところばかりを見せようとするじゃないですか。結婚だから、本音100%なんです。今も本音を話していますけれども、本音しか話せない人間なんです。できないことはできないと言うし、人間なんて不完全なんです。だから、当社の選考では全部話しています。「ハードワークだよ。休みは労働基準法に認められている月7日しかないよ」と言っているのです。
ある日の全体会議で仕事の意義についてみんなに話をしたことがあります。縦軸の上半分は「目的・目標」、下半分は「無目的・無目標」。横軸の左が「自分中心」、右が「仲間」。右上45度に「使命」がある。右下は「仲間と共に楽しい」ということになりますが、これもおかしいんですよ。やはり組織には使命があります。また、自分さえよければいいと言っては組織とは呼べません。転々とする人というのは、自分軸が強い人です。だから、右上の「使命」に生きるということが、とても大切だと私は思っていますし、「使命」が会社と合致している人材を採用することにこだわっています。
― 人材教育については、いかがでしょうか。
矛盾したことを言うようですけれども、社員の幸せを願って私は厳しく教育をします。365日休まない病院があります。医療は患者のためのものじゃないですか。大切なことはお客様から選ばれ続けない限り、社員の生活は守れないということです。ましてや、新卒から採用しているのです。新卒で社会に出てすぐに経営者に対して教育をできる人材を育てるわけですから、もちろん最初は大変です。その代わり、業界の中でも、他の会社よりも給料を良くしているんです。新卒でも27~28万円はとっています。
私は、スキルがないときは「育てていただいてありがとうございます」という心を育てることが経営の妙手だと思っています。経営の仕組みではないんです。先輩から教わったらありがとうございますと言うのは、当たり前のことです。学校時代の部活でも同じですよね。やっぱり丁稚奉公ではないけれども、入部したばかりの子は、一生懸命片づけをしたり、掃除をしたり、下積みです。でも、その下積みが心を作るわけです。だから、私は基本教育というのをすごく大事にしているんです。
これを他社が真似できるかというと、なかなか真似できない。なぜかというと、出所が違うんだと思います。私の場合は心の本質的なところから、本当に人を育てようと思って経営しています。自分が採用した人間の幸せを真剣に考えられないようだったら、私は会社をやめます。100人にする意味がないじゃないですか。私は、教育の仕事が好きなので、仕事そのものに生きがいを見出しています。大事なことは仕事が喜びと感じられるかどうかっていうことなんです。仕事が喜びと言えるような人材を育てたいと思います。本気で逸材を育てようと思っているので、厳しいわけです。それが社員にも分かるから、社員も一生懸命働いてくれるわけです。要するに、人をつくることが企業づくりなんです。企業は人なんです。そう思えるから、また研修の仕事が出来るわけです。
■社会に対して意味のある出版物
― 出版事業についても少しお聞きしたいのですが、グループ全体の中で出版事業はどのような位置づけにされているのでしょうか。
おかげさまでアチーブメント出版は、出版不況と言われる今の時代でも利益が出ていますが、本質的には選択理論を世に広めたくて、出版社を興したんです。選択理論を広めることによって、社会からいじめや差別をなくし、本当に人々が安心して生活していける、明るい社会を実現するということが、出版事業を始めた動機です。
始めた当初は理念というか想いが強く、本業で利益が出ているので、出版の方は利益がなくても良いと思っていました。はっきり言って選択理論を広めるために作ったんだからという考えがありました。でもそれは、経営者としては正しい姿ではないですよね。
色々と経験をする中で、社会に対して意味のある本を出したいという思いが芽生えてきました。今では、ネーミングとかデザインとかはすべて現場に任せ、私は「社会に対して意味がある出版物かどうか」という1点だけ関わっています。選択理論はもちろん軸になっていますけれども、世の中に役立つものだけを出していこうと決めているんです。
出版を通じてアチーブメントの顧客層も広がると思います。空軍、海軍、陸軍とよく言うんですけれども、出版は空軍です。ブランディングでもあり、マーケティングでもあります。今年の6月に、4-Dシステム*16というNASA*17の教育プログラムについて書かれた『NASAのチームビルディング』という本を出しました。著者のコロラド大学ビジネススクールのペレリン教授は、NASAのチーフディレクターを10年間やっていた方で、今ではアチーブメントの顧問をやってもらっています。アチーブメントでは宇宙開発機構の研修もやっているので、技術系の法人向け研修で相乗効果が出ますよね。9月には『ドラッカーの講義 ~マネジメント・経済・未来について話そう~』を出しましたけれども、これも経営者の方に多く読んでいただいていて、研修事業に良いシナジーが生まれています。
■大切なものを大切にする
― 休暇を大切にされているとご本にも書かれていて、日曜は必ず休みをとり、3ヶ月に1回は海外に行かれるとありましたが、仕事と休暇のバランスについてはどのようにお考えでしょうか。
「振り子の原理」ということで、ハードワークをした後は抜かなきゃいけないんですよ。それはやはり、自分のベストコンディションを維持することでもあるし、私は所属の欲求が強いので、家族との人間関係をより良くすることがモチベーションなんです。家族は太陽みたいなものなんです。変わらない存在です。だから、それを第一にして生きるんです。大切なものを大切にするということが基本です。月曜の夜は、二人の子供たちに食事を作っているのですが、「おいしい」といって食べてくれるのがうれしいんですよ。
■いじめや差別のない明るい社会をつくりたい
― 人生を変えた3冊の本について教えてください。
1冊目は、ナポレオン・ヒルの『成功哲学』です。2冊目は、29歳のときに出会った『バイブル(聖書)』。バイブルと出会ってなかったら、夏目先生の会社に入社することはなかったと思いますよ。夏目先生が僕をバイブルに導いてくれたんです。それで、「人々がして欲しいと望むとおりのことを、人々にしなさい」という黄金律が自分の中に出来たんです。これが人生における、まさにゴールデン・ルールになったんです。ダイヤモンド・ルールと言ってもいいくらいのルールです。そして、3冊目がアチーブメント創業のきっかけとなった『選択理論』になります。
― それでは、尊敬する方を教えてください。
まず、選択理論心理学の大家であるグラッサー博士ですよね。
経営者でいうと松下幸之助さんです。すごく尊敬しています。9歳の丁稚奉公から「世界の松下」を創った人ですから。でも、実はすごく人間くさい人なんですよね。それと、84歳で松下政経塾を作っています。94歳の最期まで世のため人のために生きた人生なんです。
もう一人は、三浦雄一郎さん。この5年くらいに会った人の中で、ものすごくインパクトを与えられた人です。私の30冊目の著書『頂点を目指す者たちへ』は、三浦雄一郎さんと共著で出版させていただきました。前々からお目にかかりたいと思っていて、ある社員が三浦雄一郎さんのお子さんの友人だったので、それがきっかけでお会いすることができました。
― 歴史上の人物では、いかがでしょうか。
ガンジーとかマザー・テレサとかキング牧師とか、偉人と呼ばれる人です。私は、偉人伝が好きでよく読んでいるんですけれども、愛を土台にして、他人の人生に対して本当に自分の身を捧げた人は、非常に尊敬しますね。自分はそうなれないですから。とてもそこまでの生き方はできない。マザー・テレサにしても、キング牧師にしてもミッションに生きた人ですよね。「私には夢がある」で始まる有名な詩は、とても感動します。フローレンス・ナイチンゲールもそうですが、上流社会の中で何不自由なく生活をしていたのに、クリミア戦争のとき、戦地に行って活動したわけですよね。戦場で「白衣の天使」と言われ、大統領に直接手紙を書いた。上流社会の子が行ったからこそ、大統領に現状が全部伝わって、物資が届き、多くの人が救われた。帰ってきた後もナイチンゲール憲章を作ったように、一生涯を看護婦の育成に尽くしたじゃないですか。やはり、すごいなぁと感銘を受けます。
私は将来、いじめや差別のない明るい社会をつくるために、財団をつくりたいと思っているんです。今55歳ですので、あと20年くらいは実業の世界にいて、走り続けたいと思います。それ以降は、学校を創ったり、教育を通じて社会を変革したりと、国家に対して貢献する、そんなことをしていきたいんです。能力開発の世界で、溶接工見習いだった人間がどこまでできるのかということにチャレンジしたいと思います。
― お忙しいなか、貴重なお話をいただき、大変ありがとうございました。
[撮影:大鶴剛志]
*16 NASA職員の約半数が実践している画期的アセスメントで、プロジェクトチームのパフォーマンスを劇的に向上させるチームビルディングシステム。アチーブメントでは、「4-Dシステム」のアセスメントやワークショップを提供している。
*17 National Aeronautics and Space Administration(アメリカ航空宇宙局)のこと。