本田直之氏インタビュー

「無名の個人の時代 ~ビジネス書を読み、ビジネス書を書く~」第1回

聞き手 / PE&HR株式会社 代表取締役 山本亮二郎

 レバレッジシリーズをはじめ、著書累計150万部を超えるベストセラー作家の本田直之氏。著者のプロデュースも行っており、合計40万部を突破している。本田氏は「無名の個人の時代*1」や「時代のうねり」をどう捉えているのか。本田流仕事術からライフスタイルまでお伺いしました。

■「無名の個人の時代」の到来

―数年前に「無名の個人の時代」の到来を感じられたとのことですが、それはいつ頃のことでしょうか。何か具体的なきっかけがあれば教えていただければと思います。

 一番肌で感じたのはアメリカにいるときです。1994年から留学をしていたのですが、会う人、会う人のほとんどが、それほど大きくはないにしても個人でビジネスをやっていたんです。「大企業に勤めるという生き方ではなくてこういう人たちが増えているのか。アメリカはどんどんそうなるだろうな」と感じました。その頃に、日本もいずれそうなっていくんだろう、とうっすら思いました。 確信に変わったのは、ダニエル・ピンクが『フリーエージェント社会の到来』(原著:『FREE AGENT NATION』)という本を出した時期です。2002年頃に読み、「日本でも、個人が活躍する時代が完全にきたんだな」と思いました。

―それは、衝撃的な印象だったのでしょうか。

 いや、衝撃的ではなかったのですが、自分がうっすらとアメリカで感じていたことが現実になったという感覚です。「やっぱりそうだよね」と。日本でネットバブルが始まる前の1997年くらいから毎年シリコンバレーに行っていて気づいたのですが、フリーエージェントみたいな人が多いんですよ。スタバ(スターバックスコーヒーの略称)で仕事をしている人がたくさんいたし、会社に属さない働き方をしている知り合いもいたりして、「社会はこういう流れになっていくんだろうな」と感じていました。  『FREE AGENTNATION』には、例えば、スタバがオフィスになって、キンコーズでコピーやミーティングができるようになっているみたいな話が出ています。仮に企業に勤めていても、自分で別の仕事を持つことが可能だなとも。日本でも個人でビジネスをするためのインフラも整ってきていたし、ダニエルの本に触れて、日本も確かに彼の言っている社会になるなと思いました。

―そのような社会でご自身がフリーエージェントのように働きたいと思ったのでしょうか。それとも、そういう社会になる中で無名の個人のサポートもしたいと当時から思っていたのでしょうか。

 個人のサポートについては、当時から思っていましたね。なぜ僕がビジネス書を書くかというと、自分がやってきた手法がみんなの役に立つのであればシェアをしたいと考えているからです。よく「本を書くのが仕事ですよね」って言われるんだけど、企業に投資をしてその企業を育てていくことが僕の本業なんです*2。本を書くのは本業ではない。だから、そこで収益をあげようとか思っていなくて、むしろ、ノウハウをシェアするということに主眼を置いています。まさに『FREE AGENT NATION』に書かれているような社会を見て感じたこと、自分が経験して実践してきたことをシェアできて、もっとみんなの可能性が広がればいいなという考えを持っています。

―『FREE AGENT NATION』の話題が出ましたけれども、最近読んだ本のなかで特に印象に残ったものがあれば教えていただけますでしょうか。

 無名の個人に対してのお奨め本とすると『仕事するのにオフィスはいらない』という、佐々木俊尚さんがノマドワーキング*3について書いた本が良いですね。僕も実際どこでも仕事をできる状況にしたいと思ってずっとやってきたので、すごくしっくりくるし、知らないと損をする。会社に行かないと仕事ができないと思っている人はまだ多いと思います。そういう常識をどんどん捨てていかないといけない。
 あとは、高城剛さんの『サバイバル時代の海外旅行術』。タイトルには旅行術って書いてあるのですが、これもある意味ノマドライフスタイルみたいな本で、良いですね。この人のライフスタイルは、すごく正しいなと思います。

   

■「無名の個人の時代」を支えるインフラとしてのインターネット

―大企業で働くのではなくて、個人がスタバやキンコーズでビジネスをするようになったという変化、かなり劇的な変化だと思うのですが、そのような「無名の個人の時代」は、どんな背景によってもたらされたとお考えでしょうか。

 やはり、インターネットの普及が大きいですね。この社会的変化の背景として、個人がインターネット上にセルフメディアをもてるようになったことがやはり大きいと思います。個人がビジネスを始めるときに一番問題になるのは、自分のブランディングだったり、営業だったりしますよね。でも、広告を出す体力(=資本)があるかというと、立ち上げ当初でそんな人はほとんどいないわけだし、自分を知ってもらうために昔できたことというのは、DMやFAXDMを送るくらいでした。それもお金がかかるし、大変なわけじゃないですか。インターネットが普及する以前に、自分でセルフメディアを作ろうと思ったら、それこそとんでもないお金がかかってしまっていた。ある程度有名な人でなければ、メディアに露出もできなかったと思います。

 インターネットができたことによって、有名人でなくても、セルフメディアを活用して誰でも自分を表現したり、自分の成果をアピールしてブランディングしたりできるようになった。売り込まなくても営業活動がしやすくなった。インフラの革新によって「個人の時代」が後押しされたということが言えると思います。アメリカにいたときに、個人でビジネスをしている人を見て「こういう働き方もあるんだな」って思ったのですが、彼らが自分を売り込んだり、営業したりできるのは、近所の人くらいだろうなと思いました。実際、物凄くローカルな仕事をしていた。だから、個人では食べていけるけど大きくならない。ところが、インターネットができたおかげで、個人でしていたビジネスが一気に拡大してビックビジネスになる可能性が生まれてきました。

 僕がアメリカにいるときに、ちょうどインターネットが普及し始めたんですが、当時はインターネットそのものでビジネスをやりたいとは思わなかった。それよりも、インターネットを使って、企業の効率をアップするとか、もっとサービスに付加価値をつけるとか、個人の働き方を変えるとかっていうことにすごく興味があったのです。いわゆるネットビジネスをあのときやっておけば、もっと儲かったかもしれないけど(笑)。それはそれで、僕が予想していた時代に近くなってきたかなと思います。

 今後の社会について言えるのは、働き方が変わってくるということ。一つの会社にもっと拘らなくなるし、組織に属さなくても個人がビジネスをできるようになっているわけじゃないですか。ある意味自由な社会になってきたと言えます。場所の自由もできてきたし、時間の自由も結構できてきたのではないでしょうか。逆にいうと、自由をうまくコントロールできない人は、結構つらい時代になってくるんじゃないかなと思います。自由を謳歌するためには、それなりの責任やリスクをとっていかなければいけないですよね。あとは自分の力をつけることが大事。要するにプロのスポーツ選手みたいに、練習をきちんとしておかなかったら、レギュラーにはなれない時代になると思います。でも、努力していれば、すごい幅が広がるし、自由度も上がってくると思います。

第2回へ続く

[撮影:大鶴剛志]

*1 無名の個人の時代
本田氏独自の時代観。2009年11月に出版された著書『パーソナル・マーケティング』で使われた。不安定かつ変化の激しい、過酷な時代に移り変わってきた今日では、ブランディングの主体が企業から個人に移行し、個人でスキルを身につける必要性が高まっていることを指摘している。そのような「個人サバイバルの時代」だからこそ「無名の個人」にとってまたとないチャンスが到来したと提言している。「個人サバイバルの時代」については、2009年3月刊行の『本田式サバイバル・キャリア術』にて詳述されている。
*2 顧問・投資先一覧 レバレッジ・コンサルティング社HPをご参照ください。
*3 ノマドワーキング
遊牧民のような(ノマド)働き方(ワーキング)のこと。「仕事はオフィス(または自宅)でするもの」という固定概念を捨て、能率よく仕事をするために自分の都合、気分などに合わせて場所を移動しながら仕事するやり方。 ジャーナリストの佐々木俊尚氏の著書『仕事するのにオフィスはいらない』で詳しく書かれている。

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