本田直之氏インタビュー

「無名の個人の時代 ~ビジネス書を読み、ビジネス書を書く~」第3回

聞き手 / PE&HR株式会社 代表取締役 山本亮二郎

 レバレッジシリーズをはじめ、著書累計150万部を超えるベストセラー作家の本田直之氏。著者のプロデュースも行っており、合計40万部を突破している。本田氏は「無名の個人の時代」や「時代のうねり」をどう捉えているのか。本田流仕事術からライフスタイルまでお伺いしました。

■売れるビジネス書のポイントは「プロフィール」にある

―プロデューサーにはどのような能力が求められるのでしょうか。

 基本的には編集者と同じ能力が必要です。ただ、普通の編集者は著者を見つけることができないけれども、僕は著者の発掘ができるから、編集者ではなくプロデューサーなんですよね。

 『パーソナル・マーケティング』にも書いた、僕の友人で四角大輔さん(著書『やらなくてもいい、できなくてもいい。 人生の景色が変わる44の逆転ルール』)という、綾香やスーパーフライなどを手掛ける音楽プロデューサーがいるのですが、彼は自分で発掘してきて育てています。綾香もデモテープを聴いて、そこから発掘した。他のレコード会社だったら、いまいちの反応だったと思う。でも、四角さんは2人とも発掘してミリオンにしたという、とんでもないプロデューサーなんです。彼に「何で出来るの」って聞いたら、声を見抜く力があるんだと言うのです。歌手は声で決まります。声質が良ければ、絶対に売れる。例えば、ファッションがダサいとか顔がかわいくないとか、そんなものはどうにでもなる。ジャケットの写真も100万枚撮れば、絶対に1枚はいい写真が撮れる。音痴も直せる。今はトレーニングと技術がいいから、ブレを直せる。ただ、声質だけは絶対に変えられない。

 彼は、何がキーサクセスファクターかということを分かっているんです。それは、声だと。他のものを一切見ない。他のプロデューサーは、歌がうまいとか、いい詩書いているとか、そっちを見てしまうかもしれない。でも、彼は声しか聞かない。他のものを一切判断しない。顔もみない。テープだけで判断すると言います。

―すごいですね。たくさんの要素があると思うのですが、ビジネス書のプロデュースでは、一言で言うと何が一番重要なのでしょうか。

 僕は本人の「プロフィール」だと思う。何をやってきた人なのか。やっぱりそれで人生表れるじゃないですか。この人はどういう人間なのかなって。プロフィールにエッジが思い切りたっていて、面白みがある人は、極論言うと何を書かせても面白いものになる。例えば、医者でトライアスリートとか。海外には結構いるみたいだけど、日本ではそんな人ほとんどいないじゃないですか。あるいは、四角さんみたいに生涯で2,000万枚プロデュースをして、ワーナーを辞めて引退したんだけど、プロのフライフィッシャーでもあり、今年からニュージーランドに移住してデュアルライフを始めている。そういうプロフィールを聞くと、面白いじゃないですか。なんでも良いから聞かせてよってなるでしょ。その中で、どのコンテンツを中心に据えるかがポイントです。プロフィールだけで面白いなって感じる人だったら、間違った方向に導かなければ、あとはプロデュース次第だと思います。

―プロフィールの中にコンテンツがあるということですね。

 ある意味、そうですね。面白い人生を送っている人には、何かありますから。たまたまそうなりましたという人はあまりいないじゃないですか。「何で君はこうなってしまったの」という所だけ見ても面白いと思います。ベンチャーの経営者でも、プロフィールにエッジがたっている人は絶対書ける。そういうものがない人は難しい。今取り組んでいる事業をまずは成功させて、プロフィールを面白くした方が良いかもしれないですしね。

ラ・ターシュ、ロマネ・コンティなど本田さんこだわりのワインを見せていただきました。本田さんは、日本ソムリエ協会認定のワインアドバイザーの資格もお持ちです。

■面白い本の条件

―最近、私たちの投資先も結構本を書く経営者が出てきました。本田さんはバックスグループの役員でいらした頃は上場企業の経営をしながら本を書こうと思われなかったのでしょうか。

 いや、本を書きたいなと思っていたんですけど、あのタイミングで出しても多分駄目だったと思います。やっぱりピンで立っていないと、魅力が薄くなってしまいます。どこかの会社の役員っていうよりも全然知らない個人のほうが本を売るには良い。会社に紐づいて、例えばクックパッドの本がありますと言ったら、ライターの人が本を書いて、その人の名前で本を出します。会社のことについて書かれた本だから、それはそれで良いのだけれど、ものすごく面白い本は、ピンでたっている人か著名な経営者しかない。どこかの企業に勤めていると、会社のことを出さないわけにはいかないでしょ。それよりは、無名の個人の方が断然有利だと思います。だから、辞めてから書いたほうが本としては良いと思うのです。例えば、バックスにいた時に『パーソナル・マーケティング』の本を書いたとしたら、「これバックスの事業と全然関係ないでしょ」ってなるだろうし、「なぜあなたがこの本を書くんですか」ってところから疑問符がついてしまうわけです。

 本は、内容も然りなんですが、「なんであなたはこの本を書いているのか、その根拠は何なのか」ということが必要になってくる。バックスの経営をやっていて、会社がうまくいっているから経営の本を書くというのも良いと思うのですが、本としては楽しくないじゃないですか。でも、辞めた後に、こういう会社を上場させて、今こういうことをやっていますよってなると、もっと面白くなると思います。例えば、楽天の三木谷さんが書けば面白いけど、ナンバー2やナンバー3が書いても面白くない。けれども、その人たちが楽天を辞めて、新しいことをやって本を書いたらすごく面白いと思うのです。中途半端に色が濃いとそっちの色が強くなってしまうし、少しは売れるかもしれないけれど、爆発的な本にはならないのではないかと思います。

―ベンチャー企業の社長が書くことについてはどうでしょうか。

 社長はあり。社長はある意味個人じゃないですか。社長で本を書ける人は書いたほうが良いと思う。やっぱり、会社名を売るよりも個人を売る方が早いですし、「その人がやっているこの会社ね」って知ってもらうことができます。会社名を売るのは本当に難しい。僕もバックスにいるときに本田っていう人間を知ってもらって、こいつがやっている会社がバックスね、となるようにしていた。バックスと言ってもよく分からない会社だなって思われるし、面白みを感じてもらえない可能性もあります。メディアに対しても、個人から入っていく。それで、「何をやっているんだっけ、ここの会社は」と思ってもらえるようにすると良いと思います。

―社長が本を出すのはありだけど、社長以外の人は個人で立ってからの方が良いのではないかということなんですね。

 僕はそう思う。会社員の人が出して売れている本はほとんどない。中途半端にいろんなことをやるよりも、本業でがんばってきちんと成果を出してからやった方が良いと思います。オーナー社長は違います。ただ、面白くないものを出しては駄目。焦って出すのは良くないんですが、これは読んだ人にすごく役立つというものがあれば、出版したほうがいいですね。

■ビジネス書マーケットを読む

―ビジネス書のマーケットについては、どのように捉えていますでしょうか。

 ここ数年の傾向として、多分、雑誌の売上は落ちていて、ビジネス書はとんとんくらい。ちょっと下がっているかな。細かくみてみると出版点数が非常に増えていることが分かります。ビジネス書は日に10冊、月に300冊出ていると言われています。点数が増えても、店の床面積が増えるわけじゃないから、毎日10冊出版されれば、毎日10冊捨てなきゃいけない。だから、新刊だけでもどんどん回転していくので、売れている本は常に置いてあるけど、売れなくなるとすぐに棚に置かれなくなる。そのため、売れない本が大量に出てしまう。売れる本は、1点集中でめちゃくちゃ売れるけれども、増刷がかからない本が確か9割くらいだったと思う。

 そりゃそうですよね。毎日10冊も入ってくるわけですから、お店としては売れそうな本を店に並べないと駄目だし。売場のスペースが限られているから、店に置いたとしても平積みされずに棚に置かれてしまい売れなくなる。だから、売れる著者と売れない著者の差が格段に開いてしまう。最近は、ぽっと出た本で売れるものがなくなってきています。サラリーマンの人とかでも出版できる時代になったという意味では、本を出すハードルが下がってきたと言えます。出版社もブログとかで、無名の個人を見つけやすくなったということもあると思います。そのようにして新人作家を発掘してくるのですが、出版社も出版数のノルマがあるみたいで、担当ごとに何十冊という目標数が決まっているから、中途半端な状況で出版してしまうことがあるようです。ある意味、粗製濫造していると言えます。

■海外で活躍する日本人の変化(JBN*9の活動)

―ところで、本田さんはJBNを設立し、海外で活躍する日本人のサポートにも力を入れていますが、「無名の個人の時代」という「うねり」を感じられたのと同じように、海外で活躍されている方に、何か質的・量的あるいは他に感じられるような変化があったのでしょうか。

 それはすごくありますね。昔、海外で活躍していた日本人は、ある意味一匹狼的な人が多くて、後から来た人を応援しない雰囲気があったんです。自分のテリトリーを侵害しないでくれという人が多かった。今でもそういう人はいるけど、お互いに協力できるところはみんなと協力してやっていこうという風潮に変わってきています。そこは日本人が海外で弱かったところだと思います。群れるのは好きじゃないという人もいるのかもしれないけど、やっぱり華僑が凄いなと思うのは相互の助け合いです。華僑同士の助け合いがあるから、それぞれが海外で活躍できているわけで、昔の日本人はお互いに蹴落とし合っていた感じがします。

―それは留学されていた頃も含めてですか。

 留学生はそういうことはないんだけれど、商売をやっている人たちは多かった。そうじゃない人たちも勿論いましたよ。ただ、最近はこれまでの状況をなんとか変えていこうという思いを持つ人たちが増えていると思います。やっぱり華僑は凄いと。お互いにものすごく協力し合うから、みんなでうまくいくシステムがある。昔の日本人は、俺だけうまくいこうとしてやっているから、結果的にうまくいかなくなるということがあった。JBNがいろいろなところで開催できるのも、海外で活躍する日本人のなかにそういうニーズがあるからだと思います。

―大きな変化ですね。それは。

 JBNでは、僕らが現地に行って単に講演会をやるだけではなくて、集まった人たちの交流会を必ずやるようにしています。JBNをつくるまでは、そもそもそういう集まりがなかったと言われてびっくりしました。大企業の駐在員の集まりや慶応や早稲田の卒業生の会は結構あるんです。だけど、自分で海外に出た人たちの半分以上は、何か商売をやっているような無名の個人の集まりです。そういう人たちが集まる場はほとんどなかったし、お互いに助け合う環境がなかったのですが、JBNを通じて環境づくりをしたことによって、ハワイでは定期的に開催されるようになり、ロスや他の地域でも開催されるようになりました。

第4回へ続く

[撮影:大鶴剛志]

*9 JBNとは
在留邦人ビジネスネットワーク(Japanese Business Network、略称JBN)
2007年7月、本田氏をはじめ、ベンチャー経営者でもあるベストセラー著者5名により設立された。海外在留邦人が増え続ける一方、日本人を対象としたインタラクティブなビジネス情報や交流の機会が少ないという現状を受け、これまで培ってきた自らのビジネス経験や知識をボランティアで提供し、海外で活躍する日本人起業家やビジネスパーソンをサポートしている。

「無名の個人の時代 ~ビジネス書を読み、ビジネス書を書く~」全4回